職場復帰の不安を取り除くためにできること ー社会とのかかわりの重要性ー

2022/4/12 最終更新

休職中は社会とのかかわりが希薄になりがちです。職場と自宅の往復が生活の大半を占めているビジネスパーソンは、職場から離れると行き場をなくした気分になり、余計に気分がふさぐかもしれません。

休職中の不安や抑うつ気分を取り除くためにも、社会とのかかわりを持ち続けることが大切です。また、職場復帰後の不安を払しょくする際にも、継続的な社会とのかかわりが有効になります。

今回は職場も含めた「社会とのかかわり」に焦点を当て、不安に対応する方法を紹介していきます。

  • 自分ひとりで頑張らない。他者の力を借りることも必要

    職場復帰の不安を取り除くためにできること(社会とのかかわりの重要性)
    ※イメージ写真です

    たとえば、うつ病を患い休職。しばらくは治療に専念し自宅で休養していた方も、回復が進むにつれ、何かしてみようという気力がわいてきます。それまでは、外の世界とかかわりを持てなかったのが、徐々に視野も広くなり、社会的な生活を希求するようになります。

     

    こころのエネルギーが少しずつたまり始めた兆しと言えるでしょう。

    この時期は職場復帰のためのリハビリ期にあたり、スムーズに職業生活に戻るためのトレーニングを行うのがいいと言われています。

     

    しかし、トレーニングと言われても、具体的に何をすればよいのかわからない人のほうが大半ではないでしょうか。世の中には復職のための書籍もあふれていますが、選ぶだけでも一苦労です。

     

    近年『リワーク』という概念が広まりつつありますが、これは『return to work』の略語であり、精神疾患が原因で休職している方を対象にした復職支援を意味します。

    リワークプログラムは専門機関で受けることができ、多くの場合、病気に対する理解を深めたり、病気の再発予防のための講座を受講できます。このコラムでも紹介した認知行動療法を取り入れている機関も多いです。

     

    このような専門機関を利用するメリットは大きく分けて二つあります。

     

    ひとつは、復職に特化した専門的なトレーニングを受けられることです。

    自宅でセルフリワークを行う方も少なくありませんが、リワークプログラムを受講し復職したケースと比較すると、復職後の再休職率が異なります。リワークプログラムを受講し、復職したほうが就労継続性は良好であると言われています。(参考文献:五十嵐良雄 2018 『日本労働研究雑誌』No.695(外部リンク)

     

    専門家の指導を受けながら復職の準備をおこなうことは、再休職予防の観点から見ても、大きな安全材料になるでしょう。

    同時に、このような専門機関を利用することで、同じ目的を持つ人々と出会うことができるという利点があります。これが二つ目のメリットです。

     

    一人暮らしで休職した方は、他者とかかわることもなく、社会生活から切り離され、日々の生活を送ることになりかねません。このようなケースでは、症状が悪化したり、困りごとが発生した場合にも、誰にも相談できないという状況が発生します。

     

    このような社会と断絶した状況は症状を悪化させる可能性があり、順調だった回復を遅らせることにもつながります。社会的に孤立しないことは、この意味からも重要です。

     

    リスクを回避するためにも、専門機関を利用する価値はあるでしょう。

     

    自宅にひとりでいたら見逃してしまう、症状悪化の危険信号に誰かが気づいてくれたり、同じ悩みを持つ人々と話をすることで解決策を見出すことができるのは、安心感をもたらします。

    自分ひとりではないと思えることは心強さにもなり、同じ悩みを共有する人たちとつらい状況を一緒に乗り越えていこうという勇気ももらえます。

    職場という社会から離れた休職期間中の居場所として、こうした機関は機能し、ふさぎがちになったり、不安が増すのを防いでくれます。

     

    居場所というと子どもっぽい印象を与えるかもしれませんが、人間の心理において居場所が果たす役割は実は小さくありません。

    居場所がメンタルヘルスによい影響を与えることもこれまでの研究でわかっています。

     

    職場でバリバリ仕事をしていたころは、職場が居場所だったかもしれませんが、休職期間中は離れざるをえません。職場という居場所の代わりに、専門機関を利用することで、「自分を受け入れてもらえる場所がある」、「自分も社会生活に参加している」という安心感を得てみましょう。

    それだけでも、休職期間の生活は無味乾燥ではなくなるはずです。身の置き所がないという不安感も低減されます。

  • 居場所の効用と所属感の重要性。自殺のリスクを減らすためにも、社会的なかかわりは不可欠

    症状が軽くなり、認知機能も向上してくると、社会生活に意識が向くようになります。

    回復するからこそ、症状が重かった時期には無関心でいられたことに目が向き始めます。

     

    たとえば、時間を持て余す感覚です。世の中はせわしなく動いているのに、自分だけ何もせず無為に過ごしているような感覚に襲われます。

    同僚たちは今頃一生懸命働いているだろうと想像し、休んでいる自分と比較します。

    職場で担っていた何かしらの役割もなくなって、こころに穴が開いたような気持になるかもしれません。社会に必要とされている感覚は私たちにとって非常に重要なものです。

     

    メンタルヘルスに大きな影響を与えると言われています。

    家庭にも、どこにも居場所がないと感じることはありませんか。

    定時に出勤するビジネスパーソンを見て、取り残された気分になりませんか。

    世の中の役に立たない自分は価値がないと自責の念に駆られたりしないでしょうか。

     

    家族や仲間、職場などの集団から外され、どこにも所属しているという感覚が持てない感じを『所属感の減弱』と言いますが、これは自殺を引き起こす要因になりえます。

    この「所属感の減弱」に加え、自分が周囲の人々や社会のお荷物だと感じる『負担感の知覚』は自死を選ぶ引き金になると言われています。(参考文献:松永麻実、北村俊則 2015 『精神科治療学30(3)』(外部リンク)

     

    簡単に表現すると、休職中に感じられる「居場所のない感じや、誰の役にも立っていない感じ、そのために周囲にとって自分は迷惑をかけるだけの存在ではないか」という気持ちが自殺を引き起こすきっかけになるのです。

    このリスクを排除することは、職場復帰を目指すうえで非常に重要です。健康的な職業生活を継続するためには、まず生きていなければなりません。

     

    うつ病において、最も自殺のリスクが高いのは、回復が進んできて、気力も戻り始めた時期だとされています。そのリスクを低減することは大切なことです。

    そのためにも、専門機関を利用し、社会的なかかわりを維持する。

    集団のなかで役割を果たすことで、所属感を満たす。

    誰かに必要とされる感覚を味わう経験は貴重です。

     

    そのうえで、自分の病気についての理解を深め、二度とつらい思いをしないためにトレーニングする。

    リワークの専門機関には多様な機能があるので、使わない手はありません。

    人は社会的な生き物です。いずれ戻っていく職場という社会に再び適応できるようになるためにも、社会的なかかわりをおろそかにしない姿勢は重要であると言えます。

  • 休職生活から職場復帰へ。「自分の居場所はあるのだろうか……」の不安を低減するために

    休職時間も残り少なくなり、復職が間近になってくると、ほっとすると同時に不安に駆られる方も多いと思います。

    長い間離れていた職場に戻り、休職前と同じように働くことができるのか。職場の仲間はどのように受け入れてくれるのか。自分の席はまだあるのだろうか。など、さまざまな不安におそわれるでしょう。

     

    ですが、このような不安は珍しくありません。休職生活という環境から、職業生活という環境に変わるのです。環境の変化に戸惑うのも無理はありません。大切なのは焦らないことです。

    まずは環境の変化についていけるように、徐々に心身を慣らしていきましょう。

     

    最初から、休職前と同じパフォーマンスができると期待するのは禁物です。復職直後は、思考力、集中力、判断力もまだまだ万全ではなく、ベストコンディションには程遠い状態です。

    そのとき与えられた仕事をこなしつつ、治療も並行して受けるのが、再休職を防ぐ秘訣です。

     

    無理のない職場復帰をするためにも、休職中から職場と関係性を繋いでおくことも、とても重要になります。

    自分ひとりで復職後の環境調整を依頼することが難しければ、専門機関では橋渡しを頼むこともできます。セルフリワークでは難しいもう一つの利点です。

     

    専門機関という居場所にいながら、いずれ戻っていく職場と連携を図る。

    こうすることで、職場に席がなくなるのではないか、復帰したとき歓迎されないのではないかという不安を低減することが可能になり、心理的にもスムーズに職場復帰ができるはずです。

    最初は、十分に働けない自分を同僚と比較し、気後れするかもしれませんが、関係性ができていれば、その不安も乗り越えられるでしょう。

    職場の同僚たちも、復職にあたってのあなたの状況を理解してくれているからです。

     

    無理をして、パフォーマンスを上げようと努力する必要はありません。再休職をせず、長く働き続けてくれることが、職場の希望でもあるので、あなたはそのときの体調に合わせて慣れていけばいいのです。

    居心地よく職場で過ごせることが、ストレス低減にもなり、回復をより推し進めるのは言うまでもありません。

藤澤 佳澄
執筆:藤澤 佳澄
執筆:藤澤 佳澄
大阪大学 大学院人間科学研究科 博士後期課程単位取得退学。大阪大学非常勤講師をはじめ、各種教育機関で教鞭をとる。 メンタルクリニックにて十年弱心理職として従事。「体験型ワークで学ぶ教育相談」(大阪大学出版会)一部執筆。現在は特定非営利活動法人Rodinaの研究所にて、リワークを広く知ってもらうための研究や活動をおこなう。