ここで一つ強調しておきたいのは『PTG』は、全ての逆境に遭った人に経験されるものではないということです。『PTG』の研究はまだ始まったばかりで、詳細なプロセスなどについても研究の蓄積は足りません。しかし、現実に『PTG』を経験している人々がいるからこそ、この“こころの回復力”は脚光を浴びています。
では、具体的に『PTG』をどのように休職にいかしていくかを考えていきたいと思います。
先にも述べた通り、休職は当事者にとっては、人生の危機にも相当するつらい出来事かもしれません。このような出来事を経験せざるをえなかったとき、私たちは苦悩し、もがき苦しみます。
先が見えない暗闇に放り込まれた気持にもなるでしょう。
ですが、この苦悩こそが不可欠なのです。自分自身を顧みるなかで、見えなかったものが見えてきます。新たな気づきを得ることができるのです。
気づきは実感をともなうこともあります。
たとえば、これまでの仕事に対する姿勢です。
自分さえ頑張れば、業務はうまく回ると無理をしすぎていなかったでしょうか。
会社のために役立ちたいと考え、頑張りすぎた結果、心身の不調を感じるようにならなかったでしょうか。
「つらかったなあ……」「しんどかったなあ……」という実感がわいてくると思います。
これが気づきにつながります。
「このままでは駄目だ」「もっとプライベートも楽しめるライフスタイルに変えたい」など、今までの自分を変えようという気持ちにつながるでしょう。
この気持ちが強いほど、変化へのモチベーションは高まります。
もう二度と同じ轍を踏みたくないと思えばこそ、病気の再発を防ぐ努力もしようと思います。
このように『PTG』のプロセスを活用することで、再休職予防のモチベーションを上げることも可能になります。
苦悩はつらいですが、決して無意味ではありません。休職者にとって、その出来事が人生においてどのような意味を持つか、改めて振り返るタイミングなのだと理解していただければと思います。
また、『PTG』における変化については、対人関係の価値観があります。苦悩していくなかで、自分ひとりではないこと、支えてくれる家族や仲間、社会的資源があることに気づきます。
この社会的資源に対する感謝の気持ちが、他者への思いやりにつながり、新たな可能性を拓いてくれることも研究でも示唆されています。
リワークにおいては、復職という同じ目標を持つ休職者たちの存在が、当事者にとって大きな意味を持つことがわかっています。
一人ではすべてを乗り越えられないことに気づく。
これだけでも、一人で仕事を抱え込みがちであった休職者には意味のある変化ではないでしょうか。困ったときには誰かに助けを求め、重荷を誰かと分かち合う。このような経験にともなう実感は、その後の対人関係を変えるでしょう。
自分も助けてもらったのだから、困っている人を自分も支えていこう。
意識の変化はこのように生じます。
休職というつらく、苦しいライフイベントも、このような視点を取り入れると、人生を変えられる契機にならないでしょうか。復職後のライフキャリアをより豊かにするためにも、『PTG』という考え方をぜひ取り入れていただきたいと思います。