職場でもメンタル不調について語り合おう -メンタル不調は話しづらい?-

かつてメンタルヘルスの話題は、職場で触れにくいものであり、口に出しにくい空気もありました。しかし現在、メンタル不調者は珍しくなくなり、メンタル不調についての理解も進みつつあります。

それでも、自分のこととなるとなかなか打ち明けられない、また気づきにくいのがメンタルヘルスの不調です。職場で少し気をつけ合うことにより、メンタル不調は早期発見、効果的な治療が見込めます。

今回は、職場で推進していきたい、メンタルヘルスについての取り組みを紹介したいと思います。

  • メンタル不調は話しづらい?

    職場でもメンタル不調について語り合おう
    ※イメージ写真です

    うつ病をはじめとするメンタル不調は増加傾向にあると言われています。メンタルクリニックも珍しくなくなり、精神科・神経科を受診する人も増えました。厚生労働省の調べによれば平成29年には400万人を超える患者が医療機関を受診しています。

    これほど多くのメンタル不調者がいるはずなのに、私たちはまだどこかで他人事のように感じているのかもしれません。自分はそうでないとしても、あなたの身近に、不調をきたしていそうな人はいませんか。

    そういえば、ここのところ口数が減って、調子が悪そうだな、と感じる同僚や部下はいないでしょうか。

    顔色もよくなく、一緒に昼食を食べても箸が進んでいない。そんな人はいないでしょうか。

    もしいたとして、あなたは気軽に「調子悪そうだけど、どうかした?」と聞くことはできますか。

     

    たとえば、相手からの返事が「ここのところ胃もたれしていて、食欲がない」という場合は、相手の不調をいたわり、「早く病院に行ったほうがいい」と勧めるかもしれません。

    では、言葉少なに「何でもない」と返されたらどうでしょう。

    明らかに顔色や表情、そして様子は具合が悪そうです。なのに、相手は「大丈夫」としか言いません。

    このような場合、返答に困る人が大半でしょう。心配しつつも、深入りもできず、相槌を打って終わる人がほとんどではないでしょうか。

     

    こんなとき、近年メンタル不調者が増えていると思い浮かべば、精神的な不調かと想像します。もしかして「うつ病ってやつかな」と考えるかもしれません。ですが、それを言葉にして、相手の調子を尋ねることは非常に敷居が高く感じられると思います。

    メンタル不調ではないか、と尋ねることは、今でも話題にしにくい内容であり、もしかしたら相手に失礼かもしれない、と感じる人が多いからかもしれません。

    確かに、非常に繊細で話題にしづらい内容です。人によっては、尋ねられたことにより、不快な思いをする場合もありえます。同時に、メンタル不調は早期発見に越したことはないのです。

     

    今、どれほどの人々がメンタル不調をきたしているか思い出してください。

    あなたの同僚や部下が完全に調子を崩してしまう前に、あなたにできるほんの少しのことを心がけてもらえればと思います。それは、日常的な会話のなかでの簡単な声掛けでいいのです。

    「調子が悪そうだけど、大丈夫? 顔色もよくないから心配だよ」

    これなら相手も悪い気はしませんし、踏み込んだ内容になりません。自分が相手を気にかけているのも伝わります。

     

    厚生労働省による『平成28年労働安全衛生調査(実施調査)』(外部リンク)によれば、“ストレスを相談できる相手”として約8割が上司・同僚をあげています。1位の家族・友人に次いで、相談相手として信頼を置いていることがわかります。

    いきなり「メンタルの調子が悪いのか」と尋ねることはせず、あくまで相手の体調全般を気遣う姿勢が望ましいでしょう。

    そうすれば、メンタル不調をきたし始めた相手は、あなたになら相談してくれるかもしれません。

    あなたが相談の内容に答える必要はないのです。社内の産業保健スタッフやかかりつけ医により詳しく相談するよう勧めれば大丈夫です。

    それだけで、あなたは、もしかしたら調子をひどく悪くする手前の人を助けられるかもしれないのです。

  • 同僚・部下の不調を見抜く。どこをポイントに見ればいい?

    もし、同僚や部下に異変があったとして、どのポイントに注目すればいいのでしょう。

    医師でなければ診断をおこなうことはできません。ですが、私たちも見るべき点をしぼれば、同僚のメンタル不調に気づくことができます。

    メンタル不調に多い異変は下記のとおりです。

    気が滅入っている
    やる気・モチベーションが上がらない
    欠勤・遅刻が増えた
    趣味などを楽しめなくなった
    ささいなことにイライラする
    ものごとに悲観的になる
    睡眠がとれていない
    食欲が低下している
    頭痛がある

    このようなサインが出ているようなら、要注意です。

     

    目安は2週間、同じ状態が続いているかどうかです。2週間以上、サインが出ていると感じたら、まず相手に声掛けをしてみましょう。

    「調子がよくなさそうだけど、大丈夫?」という声掛けです。根掘り葉掘り聞く必要はありません。本人に「自分は専門医にかかる必要があるのだ」と意識してもらうだけで十分です。

    「周囲の目から見たら調子が悪そうに見える。心配だから声をかけてみたが、大丈夫なのか」という問いかけをすることで、まずは本人の自覚を促します。

     

    本人が「自分は調子を崩していそうに見えるのだ」と認識してくれればまずは成功です。後は、適切な相談機関に行くことを勧めます。それだけで、あなたは十分相手のために行動したことになります。

  • 大切なのは日々のコミュニケーション。相手のサインを見逃さない

    職場でもメンタル不調について語り合おう
    ※イメージ写真です

    相手の異変・不調に気づき、声掛けをすることが、同僚や部下の病気の早期発見につながると説明してきました。当事者にとっては調子を崩しながら働き続けるより、気づいてから最短で受診するのが一番です。

     

    メンタル不調の代表であるうつ病も早期発見・早期治療が重要であると言われています。

    そのためにも、職場内で、メンタル不調に気づき合える空気づくりを作っておくことが、従業員のメンタルヘルスを良好に保つためにも有効です。

    では、従業員同士がメンタル不調に気づき合える職場、また、それを伝え合える職場というのはどのような場所でしょうか。

     

    一つは、「メンタル不調に対して寛容である場所」ということが言えるでしょう。メンタルヘルス不調や、不調者に対して先入観がなく、従業員が日ごろから自分の問題であると関心を持っていることが大切です。

    そうすれば、メンタル不調のことを口にしにくいという雰囲気を取り除けますし、相談しやすい空気を作れます。

    このような現場の空気を作ることは容易ではありませんが、メンタル不調に対して、折に触れて理解を深めてもらう機会を作ることはできるはずです。

     

    二つ目は、風通しのよい職場、つまりコミュニケーションがとれている職場です。いくら職場がメンタルヘルスに理解があっても、人間同士の関係性が構築されていなければ、お互いに話す気にはなれないでしょう。

    普段から従業員同士コミュニケーションをとり、話をしやすい関係性を作っておくことが重要です。これは信頼関係の構築にもつながりますし、信頼関係ができることで、困りごとや悩み事はより打ち明けやすくなります。

     

    一緒に業務を進める仕事仲間、せっかくならよい関係性を作っておきたいと思いませんか。互いに関心を持ち、異変があれば気づき合えるというのは、心強いチェック体制です。

    自分から、仲間たちの健康を気にかけておく姿勢ももちろん大切ですが、この姿勢を同僚間で共有することは、ひいてはそれぞれが互いを気にかけ合えることになるのです。

    チームで仕事を進めている場合など、一人の異変を見落とさなくて済むので、これほど心強いことはありません。

藤澤 佳澄
執筆:藤澤 佳澄
執筆:藤澤 佳澄
大阪大学 大学院人間科学研究科 博士後期課程単位取得退学。大阪大学非常勤講師をはじめ、各種教育機関で教鞭をとる。 メンタルクリニックにて十年弱心理職として従事。「体験型ワークで学ぶ教育相談」(大阪大学出版会)一部執筆。現在は特定非営利活動法人Rodinaの研究所にて、リワークを広く知ってもらうための研究や活動をおこなう。