ストレスはものの考え方から? 自分のルールや思い込みに目を向けて、感情をコントロールする

2022/4/12 最終更新

日常生活のなかでストレスはつきものですが、多くの人が対処法に悩んでいるのではないでしょうか。ストレスを感じやすい場面のなかでも特に多いのは人間関係です。

趣味の合う、親しい友人同士であってもささいなすれ違いでストレスを感じることがあります。感情に任せた言動で気まずい思いをしたことはないでしょうか。ビジネスの場面では、このような言動のコントロールが非常に大切になってきます。

今回は出来事から感情が生じるメカニズムと、言動をコントールする方法について紹介します。

  • 私のルールはあなたのルール?

    私のルールはあなたのルール?
    ※イメージ写真です

    職場の同僚とWebミーティング。リモートワーク(テレワーク)が一般的になりつつある現在、朝一番におこなわれる業務として珍しくなくなったと思います。

    “わたし”は在宅で勤務していても、10分前にはパソコンを立ち上げ、5分前には参加できるように準備しています。

    身なりも整え、ネクタイこそ締めませんが、ジャケットを羽織り、モニタの前で待機しています。始業時間3分前くらいになると、参加者も増えてミーティングは賑やかになってきます。

    「遅くなってすみません」

    同僚Aはいつも時間ギリギリに滑り込んできます。直前まで寝ていたのか、スウェット姿での参加です。“わたしのルール”からすれば考えられません。

     

    あなたが“わたし”ならどう感じますか?

     「家でも仕事なんだから、服装くらいちゃんとしてほしい」とムッとする。

     「ミーティングに参加するのに遅刻寸前なんてありえない」とギョッとする。

     「ギリギリ間に合ってよかったね」と好意的に受けとめることはできますか。

     

    やはり、“わたし”はどうしても気持ちよく受け入れられません。もやもやを抱え、穏やかでない気分のまま始業します。イライラした気持ちのまま仕事に手をつけるので、なかなかはかどらないこともあるかもしれません。

     

    こんなとき“わたし”はこころの中で呟いています。

    「Aさえちゃんとミーティングに参加していれば、こんな嫌な気分にならなかったのに」

     

    こんなとき“わたし”はストレスを感じています。しかも、これが毎日繰り返されると、ストレスも蓄積されていきます。最初は我慢できたAのささいなふるまいも少しずつ目に余るようになっていきます。

     

    “わたし”は一言言ってみるでしょうか。それともAに対して冷淡な態度をとることで不快感を示すでしょうか。

    そのような対処法は確かにそのときすっきりするでしょうが、後々の関係を考えると賢明とは言えないでしょう。注意されたことによりAが改善してくれれば御の字ですが、うまくいかないこともありえます。

     

    そうなれば、気まずい対人関係になるだけで、“わたし”のメリットはありません。

    では、“わたし”はこのような出来事、イライラをどのように扱えばいいのでしょうか。

  • 私の思い込みに目を向けよう

    私の“思い込み”に目を向けよう
    ※イメージ写真です

    では、実際にイライラが発生するメカニズムに目を向けてみましょう。“わたし”はなぜAの行動にこんなにも苛立ちを感じるのでしょうか。

    それは、特定の状況に直面すると、自然に浮かんでくる考えやイメージと結びついています。

     

    この場合は「ミーティングにギリギリに参加する」「だらしのない服装」という状況が引き金になっています。Aにこのように対応されて、“わたし”はどんな気持ちになったでしょう。「怒り・悲しい・不愉快」いろいろな感情が入り混じった気持ちになるかもしれません。

     

    その感情自体を否定する必要はありません。大切なのは、このような感情を引き起こした考えを明らかにすることです。“わたし”はAに対して「なんて失礼なんだ」とか「わたしやみんなをいい加減に扱っている」と考えなかったでしょうか。

     

    だから、ストレスに感じるし、苛立ちをおさえることができません。

     

    では、ここで想像を膨らませてみましょう。

    逆に、自分がAのように始業ギリギリにスウェット姿で飛び込む姿です。私はどんな気分になるでしょうか。

    私はもちろん同僚をいい加減に扱っているつもりもありませんし、服装に悪意もありません。

     

    けれども、他人に対して「わたしは許せない」と思うふるまいをしてしまった自分を許せない気持ちが湧いてきませんか。自己嫌悪のような、憂うつな気分におそわれるはずです。

    そして、「私はなんてダメな人間なんだ。社会人として失格だ」という考えにとらわれます。

     

    現実的に考えれば、業務に支障を来たさなければ、始業ギリギリに参加しても構いませんし、そのことで“わたし”の人間性まで否定されません。

    しかし、私はどうしても「5分前にきちんとした身なりで参加する」ことをやめられずにいます。そこには、「そうしなければ、自分はダメな人間だ。無能だ」という思い込みがあるからです。

    この思い込みは比較的簡単に気づくことができます。

    自分の中で口ぐせになっている言葉はありませんか。「俺はダメな奴だ」「〇〇失格だ」。

     

    この言葉をさらに掘り下げたとき、イメージされる姿はどのようなものでしょう。

    社会人として失格だ。

    俺はダメ人間だ。

    ダメ人間な自分は誰からも相手にされない。

     

    このように、少しずつ掘り下げていくことで、こころのより深い部分に近づいていくことができます。人間の心は氷山の一角のようであり、私たちが見えているのはほんの一部にすぎません。

    私たちのこころの大半は、自分自身気づかないまま、日々を過ごしていることになります。

     

    ですが、今回紹介したような掘り下げるやり方を用いることで、気づいていなかった自分のこころの中核にあるものにたどり着けることがあります。

    決して容易ではありませんが、まずは思い込みに気づくことで、自分の言動をコントロールしてみましょう。自分を縛っているルールにも思い当たるはずです。あなたの思い込みがストレスや他人とのいざこざの原因となっていると気づけたら、日常生活はもっと楽になるでしょう。

  • 変えることができる私のルール -ストレスマネジメント-

    ストレスはものの考え方から?原因と対策
    ※イメージ写真です

    うつ病の人に良く見られる考え方にはいくつかのパターンがあると言われています。

     ・すべてを徹底的にしなければ気が済まない完ぺき主義

     ・自分や他者に対して〇〇すべき、〇〇でなければならないというべき思考

     ・少ない事実をすべてに拡大解釈して、あらゆる出来事が同じ結果になると一般化

     ・悪い出来事は全て自分と関連があると考える自己関連付け

     ・白黒をはっきりさせないと気が済まない二分割思考

     ・自分の長所を否定し、大したことはないと無視をする肯定的側面の否定

     ・自分の短所や失敗を実際より大げさに考え長所や成功を実際より小さくとらえる過大視

     などです。

     

    これらは先に説明した“思い込み”にあたります。

    うつ病をわずらっているとき、「私の将来は真っ暗に違いない」と絶望的な気持ちになることがあります。これは病気の症状がそのように思わせているのも事実ですが、同時に、その人がもともと持っている考え方のパターンが影響を与えていることがあるのです。

     

    「仕事のパフォーマンスが落ちている。明日クビになるかもしれない」

    「上司の対応が冷淡だった。自分は嫌われたに違いない」

     

    悲観的な思考はうつの症状ですが、同時に前章の振り返りをしてみてください。

    仕事のパフォーマンスが一時的に落ちたところで、それが解雇の理由になるでしょうか。

    解雇の理由になりえると感じるのは、なぜでしょう。

    そこに「私はいつも完ぺきに仕事をこなさなければならない」という思い込みが潜んでいませんか。また「少しのミスを拡大解釈し、成功を小さくとらえる」イメージがくっついていませんか。

     

    このような思考のパターンに気づくことができるようになると、考え方を変える方向性が見つけられます。たとえば、実際にやりとげたこれまでの業績を書き出してみて、解雇されるような人材なのか確かめるというやり方もあります。

    認知行動療法は専門的にこの段階を踏んでいく心理療法ですが、日常生活のなかでもいかせることは多いです。

    まずは、自分のルールや思い込みに目を向けること。うつ病の人に限らず、自分の感情をコントロールしたい人はぜひ意識的に心がけてみてください。

藤澤 佳澄
執筆:藤澤 佳澄
執筆:藤澤 佳澄
大阪大学 大学院人間科学研究科 博士後期課程単位取得退学。大阪大学非常勤講師をはじめ、各種教育機関で教鞭をとる。 メンタルクリニックにて十年弱心理職として従事。「体験型ワークで学ぶ教育相談」(大阪大学出版会)一部執筆。現在は特定非営利活動法人Rodinaの研究所にて、リワークを広く知ってもらうための研究や活動をおこなう。